近年、ワイヤレスイヤホンがストーカー行為に悪用されるケースが急増しています。見えないBluetooth信号やGPS機能を悪用した新たな形のストーカーは、多くの人々の生活に深刻な脅威をもたらしています。具体的な製品名やアプリを含めた最新の手口と対策を調べてみました。
深刻化するワイヤレスイヤホンによるストーカー被害
2025年の最新データによると、紛失防止タグを用いたストーカー相談件数は、令和3年のわずか3件から令和6年には370件へと爆発的に増加しています。この数字は、ワイヤレス技術を悪用したストーカー行為が急増していることを如実に表しています。
Bluetooth技術を悪用した位置特定
多くのワイヤレスイヤホンがBluetooth技術を使用しており、この信号が周囲のデバイスに届くことで位置情報が収集されます。特に危険なのは、AirPodsの「探す」機能やSamsung Galaxy Budsの「SmartThings Find」機能など、紛失時の探索を目的とした機能が逆に悪用されるケースです。
例えば、AirPods ProやAirPods Maxでは、「Find My」アプリを使用してリアルタイムで位置を追跡できます。元交際相手のイヤホンをこっそり持ち帰り、自分のデバイスとペアリングしておけば、その後の相手の行動を常に把握できるという恐ろしい状況が生じます。
GPS機能搭載イヤホンの危険性
一部の高性能ワイヤレスイヤホンには、GPS機能やその他のセンサーが組み込まれています。Sony WF-1000XM4やBose QuietComfort Earbudsなどは、専用アプリを通じて位置情報を記録することができます。
これらのイヤホンは、「Sony | Sound Connect」アプリや「Bose Music」アプリを使用することで、最後に接続された場所や移動経路を記録します。悪意のある人物がこれらのアプリにアクセスすれば、被害者の生活圏や行動パターンを簡単に把握できます。
スマートフォン連携による追跡
ワイヤレスイヤホンはスマートフォンとペアリングされていることが多く、スマートフォンのGPS情報を利用して位置を特定できるケースがあります。特にGoogle Pixel Budsの場合、「デバイスを探す」ネットワークを使用して、イヤホンの正確な場所を地図上で確認できます。
2024年に明らかになった「WhisperPair」という脆弱性では、GoogleのFast Pair技術を悪用して、最大14メートル離れた場所からデバイスをハッキングできることが判明しました[2]。この脆弱性は、JBL、Anker、Sonyなどの主要ブランドの製品に影響を及ぼしています。
具体的な製品と悪用手法
Apple AirPodsシリーズ
悪用可能な製品:
- AirPods Pro(第1・第2世代)
- AirPods Max
- AirPods(第3世代以降)
悪用手法:
- Find My機能の悪用:元交際相手のAirPodsをこっそり持ち帰り、自分のApple IDに登録
- ライブリスニング機能による盗聴:iPhoneの補助機能「ライブリスニング」を使用して、相手の会話を遠隔で聞く
- Bluetooth MACアドレスの特定:2024年に発見された脆弱性により、MACアドレスを知っていれば外部から接続可能[3]
Samsung Galaxy Budsシリーズ
悪用可能な製品:
- Galaxy Buds2 Pro
- Galaxy Buds Live
- Galaxy Buds+
悪用手法:
- SmartThings Findの悪用:Samsungアカウントに紐づけられたイヤホンの位置を常に追跡
- Galaxy Wearableアプリの不正利用:最後に接続された場所や時刻を確認
- 中古品での悪用:工場出荷時リセットを怠った中古イヤホンを購入し、前所有者の情報にアクセス
Sony ワイヤレスイヤホン
悪用可能な製品:
- WF-1000XM4
- WF-1000XM5
- WH-1000XM4/XM5
悪用手法:
- Sony | Sound Connectアプリの脆弱性:Airohaチップの脆弱性(CVE-2025-20700〜20702)を悪用
- 位置情報の記録:最後に接続された場所をアプリが自動記録
- 盗聴機能の悪用:オーディオ機器の乗っ取りにより通話内容を盗聴
悪用されるアプリとサービス
位置情報追跡アプリ
Find My(Apple)
- AirPodsのリアルタイム追跡
- 最後に接続された場所の記録
- 他のAppleデバイスとの連携
SmartThings Find(Samsung)
- Galaxy Budsの位置情報
- 遠隔操作でのコントロール
- 家族との位置情報共有
デバイスを探す(Google)
- Pixel Budsの追跡
- Androidデバイスとの連携
- Find My Deviceネットワークの利用
サードパーティアプリ
AirPro: AirPod Tracker & Find
- AirPodsの正確な位置特定
- 高度なデバイス情報の表示
- Google Playで配布[5]
Tileアプリ
- 一部のイヤホンに統合
- コミュニティベースの追跡
- 複数デバイスでの検出
最新の被害事例と実態
2025年の注目すべき事例
空港職員によるAirPods盗用事件 2024年、女性がフライト中にAirPodsを紛失。その後「探す」アプリで位置を確認したところ、空港職員の自宅を指摘。刑事が調査した結果、空港職員が窃盗の疑いで逮捕されました。
中古Galaxy Budsによる追跡被害 2025年、女性がオンラインで中古のGalaxy Buds2 Proを購入。しかし、前所有者がデバイスを完全にリセットしていなかったため、購入者の位置情報が前所有者に送信され続けるという事態が発生しました。
AirPodsを使った盗聴未遂 2024年に発見された脆弱性により、AirPodsのBluetooth MACアドレスを知っていれば、外部から簡単に接続できることが判明。これを悪用して、公共の場所での会話を盗聴しようとする試みが確認されています。
ストーカー規制法の最新改正と対応
2025年12月の法改正
政府は2025年12月、ストーカー規制法を改正し、紛失防止タグを用いた位置情報の無承諾取得を規制対象に追加しました。この改正により、以下の行為が明確に違法となりました:
- 他人の同意なしに紛失防止タグを設置すること
- タグを通じて位置情報を取得すること
- 位置情報を第三者に提供すること
警察庁の対応強化
警察庁は、ワイヤレスイヤホンを含むBluetooth機器の悪用に対して、以下の対策を強化しています:
- 職権での警告制度の創設:警察が単独でストーカー行為者に警告を発出可能に
- 早期介入システム:被害相談からの対応時間を短縮
- 技術的な監視強化:デジタル証拠の収集・分析方法の改善
自分でできる対策法
即座に実行すべき対策
デバイスの定期チェック
- 所有していないイヤホンが近くにないか確認
- 不審なBluetoothデバイスの接続を監視
- 定期的にFind MyやSmartThingsアプリを確認
アプリの権限管理
- 位置情報へのアクセスを最小限に制限
- 不要なアプリの位置情報権限を無効化
- Bluetooth接続の履歴を定期的に確認
ファームウェアの最新化
- イヤホンメーカーの最新ファームウェアを適用
- セキュリティパッチの適用を怠らない
- 自動更新機能を有効化
高度な対策
ネットワークの分離
- プライベート用と仕事用のデバイスを分離
- 公共のWi-FiでのBluetooth使用を避ける
- VPNの使用を検討
物理的な対策
- イヤホンケースにRFIDブロッキング素材を使用
- 不要なときはBluetoothを完全にOFFに
- イヤホンのシリアル番号を記録・管理
法的な備え
- 不審な追跡を感じたらすぐに警察に相談
- 証拠の保存(スクリーンショット、録音など)
- 弁護士への相談を検討
まとめ:デジタル時代の新たな脅威に備えて
ワイヤレスイヤホンによるストーカー行為は、技術の進歩とともにますます巧妙化しています。GPS機能やBluetooth技術、専用アプリなど、利便性を追求した機能が、逆に悪用される可能性を秘めているのです。
重要なのは、自分のデバイスを常に管理し、不審な接続や追跡を感じたらすぐに対処することです。また、2025年12月の法改正により、位置情報の無承諾取得は明確に違法となりました。被害に遭った場合は、迷わず警察に相談してください。
デジタル時代のプライバシー保護には、技術的な知識と法的手続きの両方が必要です。日常のちょっとした注意と、最新のセキュリティ情報に目を向けることで、あなたも自分自身を守ることができるでしょう。
参考: