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2025年税制改正で「103万円の壁」はどう変わった?正しく理解する年収の壁

2025年(令和7年)の税制改正により、長年話題となってきた「103万円の壁」が大きく変わりました。この記事では、改正の正確な内容と、混同しやすい「年収」と「所得」の違い、そして社会保険の扶養基準について、正確に解説します。

2025年税制改正の正確な内容

2025年の税制改正では、基礎控除と給与所得控除がそれぞれ引き上げられました。しかし、単純に「160万円まで非課税」というわけではありません。所得金額に応じて段階的に変化する仕組みとなっています。

基礎控除の改正内容

基礎控除は、合計所得金額に応じて以下のように変更されました。

2025年分・2026年分(令和7年分・8年分):

合計所得金額基礎控除額改正前
132万円以下95万円48万円
132万円超~336万円以下88万円48万円
336万円超~489万円以下68万円48万円
489万円超~655万円以下63万円48万円
655万円超~2,350万円以下58万円48万円

2027年分(令和9年分)以降:

132万円超の場合、上乗せ特例が終了し、一律58万円となります。

給与所得控除の改正内容

給与所得控除の最低保障額が引き上げられました。

  • 改正前: 55万円(給与収入162.5万円以下の場合)
  • 改正後: 65万円(給与収入190万円以下の場合)

実際に所得税が非課税となる給与収入の額

これらの改正により、給与収入がいくらまで所得税が非課税となるかを計算すると:

給与収入123万円以下の場合:

給与所得 = 123万円 - 65万円(給与所得控除) = 58万円
課税所得 = 58万円 - 95万円(基礎控除) = 0円(マイナスのため課税なし)

給与収入160万円の場合:

給与所得 = 160万円 - 65万円(給与所得控除) = 95万円
課税所得 = 95万円 - 95万円(基礎控除) = 0円(課税なし)

したがって、合計所得金額が132万円以下の方は、基礎控除95万円が適用されるため、給与収入160万円まで所得税が非課税となります。

重要なポイント:

給与収入が160万円を超えると、給与所得も132万円を超えるため、基礎控除が95万円から88万円に減額されます。つまり、「160万円の壁」は給与収入132万円(給与所得67万円)までしか維持されないという点に注意が必要です。

扶養控除の新基準:「年収」と「所得」を混同しないために

2025年の税制改正により、扶養控除の対象となる親族の所得要件も変更されました。ここで重要なのは、「所得」と「年収(給与収入)」は異なるという点です。

扶養親族等の所得要件(改正後)

所得金額での要件:

  • 扶養親族及び同一生計配偶者:合計所得金額58万円以下(改正前:48万円以下)
  • ひとり親の生計を一にする子:総所得金額等58万円以下(改正前:48万円以下)
  • 勤労学生:合計所得金額85万円以下(改正前:75万円以下)

給与収入に換算すると:

対象所得要件給与収入換算
扶養親族・同一生計配偶者58万円以下123万円以下
ひとり親の子58万円以下123万円以下
勤労学生85万円以下150万円以下

給与収入から所得を計算する式は以下の通りです(給与収入190万円以下の場合):

給与所得 = 給与収入 - 65万円(給与所得控除)

例えば、給与収入123万円の場合:

給与所得 = 123万円 - 65万円 = 58万円

となり、扶養親族の要件である「所得58万円以下」を満たします。

新設された「特定親族特別控除」とは

2025年の税制改正では、19歳以上23歳未満の親族を対象とした新しい控除が創設されました。

特定親族特別控除の概要

対象となる特定親族:

居住者と生計を一にする年齢19歳以上23歳未満の親族(配偶者、青色事業専従者、白色事業専従者を除く)で、合計所得金額が58万円超123万円以下の人

控除額:

特定親族の合計所得金額に応じて、最高63万円が控除されます。

適用方法:

年末調整で適用を受ける場合は、「給与所得者の特定親族特別控除申告書」を提出する必要があります。

この控除は、大学生などがアルバイトで一定以上の収入を得た場合でも、親の税負担が急激に増えないようにするための措置です。

社会保険の扶養基準:年齢によって異なる「壁」

税制とは別に、社会保険(健康保険・厚生年金)にも扶養の基準があります。2025年10月から、一部の年齢層について基準が変更されました。

社会保険の扶養基準(2025年10月以降)

一般の被扶養者(配偶者を含む):

  • 年間収入130万円未満(従来通り変更なし)

19歳以上23歳未満の被扶養者(配偶者を除く):

  • 年間収入150万円未満(改正により引き上げ)

この改正は、大学生世代がアルバイトで収入を得やすくするための措置です。

重要な注意点:

  • この150万円基準は配偶者には適用されません
  • 配偶者の場合は、年齢に関わらず130万円未満が扶養の基準です
  • 「年間収入」には交通費も含まれます

年齢判定の方法

19歳以上23歳未満の判定は、扶養認定日が属する年の12月31日時点の年齢で行います。

例:2025年11月に19歳の誕生日を迎える場合

2025年における年間収入要件は150万円未満が適用されます。

交通費の扱い:税金と社会保険で異なる

交通費の扱いは、税金の計算と社会保険の判定で異なります。この違いを正しく理解することが重要です。

所得税・住民税の計算における交通費

通勤のための交通費は、一定額まで非課税となり、年収に含まれません。

非課税限度額:

通勤方法非課税限度額
公共交通機関月額15万円まで
自家用車(2km以上10km未満)月額4,200円まで
自家用車(10km以上15km未満)月額7,100円まで
自家用車(15km以上25km未満)月額12,900円まで
自家用車(25km以上35km未満)月額18,700円まで
自家用車(35km以上45km未満)月額24,400円まで
自家用車(45km以上55km未満)月額28,000円まで
自家用車(55km以上)月額31,600円まで

非課税限度額を超える部分は課税対象となり、年収に加算されます。

社会保険の扶養判定における交通費

106万円の壁(勤務先の社会保険加入要件):

交通費は含まれません。

130万円の壁・150万円の壁(被扶養者の認定基準):

交通費は含まれます。

したがって、年収123万円+交通費月1万円(年12万円)の場合:

  • 所得税の計算:年収123万円のみで判定→非課税
  • 社会保険の扶養判定:135万円で判定→130万円の壁を超える(一般の配偶者の場合)

2025年版「年収の壁」早見表

改正後の各種「壁」を整理すると以下のようになります。

年収の壁内容交通費の扱い備考
100万円住民税が課税される(自治体により異なる)含まれない従来通り
106万円一定規模以上の企業で社会保険加入義務含まれない従来通り
123万円配偶者控除・扶養控除の対象上限含まれない2025年改正
130万円社会保険の被扶養者から外れる(一般)含まれる従来通り
150万円社会保険の被扶養者から外れる(19-23歳)含まれる2025年10月改正
160万円所得税が課税される(所得132万円以下の場合)含まれない2025年改正
201万円配偶者特別控除が完全になくなる含まれない従来通り

具体例で見る新制度の影響

実際のケースで、新制度がどのように影響するかを見てみましょう。

ケース1:大学生のアルバイト(20歳)

収入状況:

  • 年収145万円
  • 交通費:月1万円(年12万円)

税金の判定:

給与所得 = 145万円 - 65万円 = 80万円

基礎控除95万円が適用されるため、所得税は非課税。

親は特定親族特別控除(最高63万円)を受けられる可能性があります。

社会保険の判定:

年間収入 = 145万円 + 12万円 = 157万円

19歳以上23歳未満のため、150万円の壁を超えているので、親の社会保険の被扶養者から外れます。自身で社会保険に加入する必要があります。

ケース2:パート主婦(35歳)

収入状況:

  • 年収125万円
  • 交通費:月2万円(年24万円)

税金の判定:

給与所得 = 125万円 - 65万円 = 60万円

基礎控除95万円が適用されるため、所得税は非課税。

ただし、給与所得60万円 > 58万円のため、夫の配偶者控除の対象外となります。夫は配偶者特別控除を受けられます。

社会保険の判定:

年間収入 = 125万円 + 24万円 = 149万円

配偶者のため130万円の壁が適用され、これを超えているので、夫の社会保険の被扶養者から外れます。自身で社会保険に加入する必要があります。

ケース3:パート主婦(30歳)の最適な働き方

目標:所得税非課税+夫の扶養内で働く

最適な年収:

  • 給与収入:123万円以下
  • 交通費:非課税範囲内

この場合:

  • 給与所得:58万円以下→所得税非課税
  • 夫の配偶者控除の対象
  • 年間収入130万円未満(交通費含む)→社会保険の被扶養者として継続

注意点:

交通費を含めた年間収入が130万円未満となるよう調整する必要があります。

例:給与収入120万円+交通費月8,000円(年9.6万円)= 129.6万円 → 扶養内

配偶者が扶養から外れた場合の影響

配偶者が社会保険の扶養から外れた場合、世帯全体でどのような影響があるかを確認しておきましょう。

夫の負担は増えるのか?

健康保険料・厚生年金保険料:

夫の社会保険料は変化しません

社会保険料は被保険者本人の標準報酬月額に基づいて計算されるため、扶養家族の増減による影響はありません。

所得税・住民税:

配偶者控除または配偶者特別控除が使えなくなると、夫の税負担は増加します

例:夫の所得税率20%の場合

  • 配偶者控除(38万円)が使えなくなる→所得税:年約7.6万円増
  • 住民税の配偶者控除(33万円)→住民税:年3.3万円増
  • 合計:年約11万円の税負担増

妻自身の負担

社会保険料:

妻自身が社会保険に加入すると、以下の負担が発生します。

年収150万円の場合の概算:

  • 健康保険料:年約7万円
  • 厚生年金保険料:年約13万円
  • 合計:年約20万円

メリット:

社会保険に加入することで、以下のメリットがあります。

  • 将来の年金額が増える(厚生年金)
  • 傷病手当金、出産手当金などの給付が受けられる
  • 医療保険の保障が充実

まとめ:2025年改正を正しく理解するためのポイント

2025年の税制改正により、働き方の選択肢が広がりましたが、正しく理解するためには以下のポイントを押さえておくことが重要です。

重要ポイント1:「所得」と「年収」は違う

税制上の判定は「所得」で行われますが、一般的には「年収(給与収入)」で考えることが多いため、混同しないよう注意が必要です。

給与収入190万円以下の場合の計算式:

給与所得 = 給与収入 - 65万円

重要ポイント2:160万円の壁は条件付き

給与収入160万円まで所得税が非課税となるのは、給与所得が132万円以下の場合のみです。160万円を超えると基礎控除が段階的に減少します。

重要ポイント3:社会保険の壁は別物

所得税の「160万円の壁」と社会保険の「130万円の壁」「150万円の壁」は別の制度です。

  • 配偶者:130万円の壁(変更なし)
  • 19-23歳の親族:150万円の壁(2025年10月改正)

重要ポイント4:交通費の扱いは場面によって異なる

  • 所得税・住民税:一定額まで非課税(年収に含まれない)
  • 社会保険の扶養判定:含まれる

重要ポイント5:総合的な判断が必要

単に税金が非課税になるかどうかだけでなく、社会保険料の負担、将来の年金額、各種給付などを総合的に考慮して、自分に合った働き方を選択することが大切です。

最後に

今回の税制改正は、働き方改革の一環として、より多くの人が柔軟に働けるようにするための措置です。特に、大学生世代や子育て世代にとって、収入を増やしやすくなる改正となっています。

ただし、「壁」の概念は複雑で、税制と社会保険で異なる基準が存在します。正確な情報を理解し、自分の状況に応じた最適な働き方を選択することが重要です。

詳しい情報や個別のケースについては、以下の公式情報源を参照してください。

参考情報:

  • 国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」
  • 日本年金機構「19歳以上23歳未満の方の被扶養者認定における年間収入要件が変更されます」
  • 所轄の税務署、年金事務所、健康保険組合

不明な点がある場合は、専門家(税理士、社会保険労務士など)に相談することをお勧めします。

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