生成AI

生成AIは日本語の質問を英語に翻訳して考えるのか?

ふつうのLLM(ChatGPT系など)の“中身”には、人間が想像するような 「日本語文をいったん英語文に変換して、その英語文で推論して、また日本語に戻す」 という 明示的な翻訳ステップ(別モジュールになる) は基本的にありません。
ただし、学習のされ方の都合で 内部表現が英語に近い形に寄る英語が優勢な中間表現を使う ことは起こり得ます。ここがややこしい点です。

 LLMの内部は「文字列」ではなく「ベクトル列」を処理する

LLMは入力文を

  1. トークン化(日本語でも英語でも、サブワード単位の記号列に分解)
  2. 各トークンを 埋め込みベクトル に変換
  3. Transformer層でベクトル列を更新しながら
  4. 次のトークン確率を出す

という流れで動きます。

重要なのは、Transformer層が扱うのは “英語文”や“日本語文”という文字列そのものではなく、意味・文脈を担う連続値の状態(hidden states) だという点です。
この段階では「英訳文がどこかに生成されて置かれている」必要がありません。


 では「翻訳してるように見える」のはなぜ?

(A) 多言語が“同じ意味空間”に整列する(暗黙のインターリンガ的表現)

多言語で学習したモデルは、学習過程で

  • 「猫」
  • “cat”

のような別言語表現が、似た文脈で出ることを通じて 内部表現(ベクトル)が近づく 方向に学習されます。
その結果、内部的には「言語に依らない意味表現(インターリンガ的)」に寄ることがあり、これが “翻訳なしに理解している” 主要因です。

(B) 英語データが多いと、推論で英語寄りの回路が有利になることがある

学習データが英語に偏っている場合、特に

  • 論理の説明
  • 数学・科学
  • 長い推論
  • プログラミング周辺

などで、モデル内部の“得意な回路”が英語と共起して育っている可能性があります。
すると日本語入力でも、内部では 英語でよく使われる概念の持ち方/表現の仕方に近い状態 を経由することがあり得ます。

ただしこれも「英訳文を作った」というより、“英語で鍛えられた表現形式に寄った” というニュアンスです。

「本当に英訳文を生成してから考える」タイプはある?

LLM単体の標準的な作りでは通常ありませんが、次のようなケースは別です:

  • システム構成として
    例:日本語→英語へ翻訳する別モデル/モジュールを前段に置き、英語で処理して戻す、みたいなパイプライン設計。
  • プロンプトで明示的に
    「英語に翻訳してから考えて」等を指示された場合、モデルが“英訳っぽい中間表現”を(外に出さず)作るよう誘導され得る。
  • ツール利用(翻訳APIを呼ぶ等)が組み込まれている場合。

AIの中身(LLM内部計算)、という意味なら、基本は 明示的英訳工程はない と考えるのが正確です。

 研究的にはどう確かめるの?

内部で本当に英語文が生成されているかは、外からは直接観測しにくいです(重み・活性を見ても「英語の文字列」が保存されている形ではないため)。

ただ、研究では次のような方向で「言語に依らない表現」や「英語優勢」の兆候を調べます:

  • 表現の整列(probes):日本語文と英語文で同じ意味のとき、内部ベクトルがどれくらい近いか
  • 中間層のデコード:ある層の状態から“英語の単語っぽさ”が復元できるか(ただし復元できても、それがモデルの“思考言語”だとは限らない)
  • 言語混在タスクでの挙動:推論の強さが特定言語で上がるか

これらは「翻訳してる」というより 共有意味空間+言語別の表層生成 という見方を支持することが多いです。

 直感的なたとえ

  • 明示的翻訳型:
    「日本語の紙を英語の紙に書き写してから考える」
  • LLMでよく起きる型:
    「日本語を見た瞬間に“意味の地図”に落として、その地図上で考えて、日本語として言い直す」
    (地図の形が英語圏のデータでよく整備されていることはある)

他の記事で以下のような説明をしました。わかりにくいので説明します。

AIにおいて: 単語と単語の関連度(重み)を計算することです。「それ」が何を指すのか、「銀行(BANK)」が「川岸」か「金融機関」かを判断するために、周囲のどの単語を強く見るかという機能です。

これは(さっきの「内部は文字列をそのまま扱うのではなく、トークン列のベクトルを処理する」という話に沿うと)LLMの中核にある 注意(Attention)機構 の説明です。

何をしている機能か(ひとことで)

文を読んでいるときに、各位置のトークンが 「いま自分が意味を決めるために、文中のどこをどれだけ参照すべきか」 を、数値(重み)として計算する仕組みです。

ここでいう「関連度(重み)」は、ざっくり言うと

  • 重みが大きい:そこを強く見る(参照する)
  • 重みが小さい:あまり見ない

という“視線配分”みたいなものです。

「それ」が何を指すか(照応)の例

例:
「太郎は花子に本を渡した。それはとても重かった。」

このときモデルは、「それ」が

  • 本 なのか
  • 渡した行為 なのか
  • 別の何かなのか

を決める必要があります。

Attentionは「それ」という位置から見て、直前の文のどの単語(トークン)に重みを置くと意味が自然になるかを計算します。
この例だと「重かった」に合うのは物体なので、「本」 に高い重みが集まりやすくなり、「それ=本」と解釈しやすくなります。

ポイントは、モデルがルールで「それは直前の名詞」みたいに固定で決め打ちしているのではなく、周辺語(重かった等)も含めた文脈全体との整合で重みが動くところです。


「銀行(Bank)」が川岸か金融機関か(語義曖昧性)の例

「銀行」は文脈で意味が変わります。

例1:川岸の意味

「彼は銀行のそばで釣りをした。川の流れは速かった。」

この場合、Attentionは「銀行」を解釈するときに

  • 「釣り」
  • 「川」
  • 「流れ」

といった単語に強く重みを置くと全体が自然になるので、川岸(river bank) 側の意味表現が選ばれやすくなります。

例2:金融機関の意味

「彼は銀行で口座を開設した。金利について説明を受けた。」

この場合は

  • 「口座」
  • 「開設」
  • 「金利」

などが強い手がかりなので、金融機関(financial bank) 側に重みが寄ります。

つまりAttentionは、「銀行」という同じ表面の単語を、周囲のどの単語を強く参照するかによって、内部の意味(ベクトル表現)を適切な方向に更新する働きをします。

よくある誤解

  • 「単語と単語の関連度を1回計算して終わり」ではなく、実際は 層(レイヤ)ごと・複数の視点(ヘッド)ごとに何度も 計算されます。
    あるヘッドは「主語と動詞」を見たり、別のヘッドは「代名詞の指す先」を見たり、という分業が起きやすいです。
  • 「重み=辞書的な意味の選択」ではなく、重みによって 参照先から情報を混ぜて“その位置の意味ベクトル”を作り直す のが本質です。
    その結果として「それ=本」「銀行=金融」みたいな解釈が安定します。

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