セキュリティー

スマホ農場の代行業者はいくら稼ぐ?料金相場と依頼主の正体

「いいね1,000件、〇〇円」。 SNSの運用代行やフォロワー増加サービスの広告で、こんな料金表を見かけたことはありませんか。安すぎて不気味に感じる一方で、「誰がこんなものを買うのか」「売っている側はそれで商売になるのか」と疑問に思った方も多いはずです。 2026年春以降、朝日新聞やTBS「報道特集」が、国内でスマホ農場を運営するグループを相次いで報じました。そこで語られたのは、年間数千万〜数億件の注文、数十億円規模の設備、そして「利益は年間45億円くらい」という自己申告でした。 この記事では、公開されている調査・報道をもとに、スマホ農場の料金相場受発注が行われている場所、そして実際にお金を出しているのは誰かを整理します。中小企業が知らないうちに「依頼主」になってしまうパターンと、その防ぎ方まで解説します。

この記事でわかること

  • スマホ農場が売っている「商品」の中身
  • いいね・再生・フォロワーの料金相場(公開調査ベース)
  • 代行業者の売上・利益の規模感と、その信ぴょう性
  • 受発注が行われている4つの場所
  • お金を出している依頼主の5つのタイプ
  • 中小企業が「知らないうちに依頼主」にならないためのチェックポイント

先に結論

  • 相場は「1,000件あたり数円〜数百円」。種類とプラットフォームで数十倍の差がある
  • 受発注の中心は、自動注文サイト(SMMパネル)・Telegram・表向きのSNS運用代行。支払いは暗号資産が主流
  • 最大の依頼主は政治ではなく「商売」。企業・個人の販促と、詐欺グループの信用づくりが多くを占める
数字は驚くほど安く買えてしまいます。だからこそ「誰が、何のために買っているのか」を知ることが、だまされない一番の近道です。
スマホ農場の基本的な仕組みや日本での実態については、こちらの記事で解説しています。


1. スマホ農場が売っている「商品」とは

スマホ農場の商品は、端末そのものではなく「数字」と「アカウント」です。大きく分けると次の3層になっています。

スマホ農場の商品の3層構造

  1. 反応(エンゲージメント):いいね、再生回数、表示回数、フォロワー、コメント、シェア、口コミ
  2. アカウント:すぐ使える偽アカウント、広告を出せる状態に設定済みの広告用アカウント
  3. インフラ:アカウント作成に必要なSMS認証(電話番号の貸し出し)、通信経路の提供
一般の人が目にするのは1の「反応」ですが、それを支えているのが2と3です。NATO戦略的コミュニケーション研究拠点(NATO StratCom COE)の2025年実験では、研究者が広告を出せる状態の偽アカウントをMeta・TikTok・YouTube向けに実際に購入できたと報告しています。偽の数字は、自然な投稿だけでなく有料広告の仕組みにまで入り込んでいます。


2. 料金相場:いいね・再生・フォロワーはいくらで買えるのか

「いいね1,000件〇〇円」という日本国内の公式な相場データはありません。そこで、研究機関の購入実験と国内報道の数字を並べて、相場感をつかみます。

公開されている価格データ

出典購入内容金額1,000件あたり(単純計算)
朝日新聞(2026年4月) 国内のスマホ農場グループへの取材YouTube再生1,000回175〜750円175〜750円
NATO StratCom COE(2025年実験)X(旧Twitter)の表示回数156,000回10ユーロ約0.06ユーロ(約10円前後)
NATO StratCom COE(2025年実験)7つのSNSでコメント・いいね・シェア・再生 計約99,000件252ユーロ平均 約2.5ユーロ(約400円前後)
NATO StratCom COE(2019年実験)コメント3,530件、いいね25,750件、再生20,000回、フォロワー5,100人300ユーロ平均 約5.5ユーロ(約900円前後)

※円換算は1ユーロ=約170円で仮に計算した推計値です。為替や購入時期によって変わります。NATOの数値は種類の異なる反応をまとめた平均で、コメントなど手間のかかるものほど高く、表示回数など単純なものほど安い傾向があります。

相場を読み解く3つのポイント

1つ目:種類で値段が大きく違う。表示回数や再生回数は1,000件で数円〜数十円と非常に安い一方、コメントや口コミは文章が必要なぶん高くなります。「いいね1,000件」の相場は、公開データから推計すると数十円〜数百円程度が一つの目安です(推計値)。 2つ目:プラットフォームで値段が違う。NATOの2025年報告では、Xが最も高くなり、Facebookは値下がりが続き、Blueskyが最も安かったとしています。値段は「そのSNSの不正対策がどれだけ厳しいか」を映す鏡です。偽アカウントがすぐ消されるほど、作り直しのコストが上乗せされます。 3つ目:日本向けは「部品」が高い。ケンブリッジ大学が2025年に学術誌Scienceで発表した調査では、偽アカウント作成に使うSMS認証の平均価格(2025年7月までの1年間)が、日本は4.93ドルと高く、米国0.26ドル、英国0.10ドル、ロシア0.08ドルを大きく上回りました。SIMカードの価格や本人確認の厳しさが理由とされています。

筆者の見立て

日本の電話番号を使った「日本人らしいアカウント」は、海外の安いアカウントより作るのにお金がかかります。国内に実機スマホと国内SIMを大量に集めた農場が商売として成り立つ背景には、この「日本向けは高く売れる」構造があると考えられます。朝日新聞が報じた国内価格(再生1,000回175〜750円)が、NATOの海外価格より一桁以上高いのも、この見方と矛盾しません(ただしプラットフォームも異なるため、単純比較はできません)。
海外の偽の数字は激安ですが、「日本人っぽい反応」は割高です。安すぎる業者ほど、中身は海外のボットだと考えたほうが安全です。


3. 代行業者はいくら稼いでいるのか

国内グループの自己申告:「利益は年間45億円くらい」

TBS「報道特集」(2026年6月)の取材に応じた18歳の「農場」関係者は、次のように説明しました。

  • 電波を遮断した部屋に60のラックが並び、基板は約10万枚
  • 同様の施設が茨城県内に4つあり、費用は数十億円規模
  • 依頼は年間数千万〜数億件。支払いはドルや暗号資産もあるため売上は非公開
  • 利益は年間およそ45億円

東京新聞(2026年9月)の取材では、「代理人」を名乗る男性が、実際の運営者は2人で、つくば市周辺の拠点ではスマホ1,000台超と基板41万枚超を4つのシールドルームで運用していると語っています。

この数字をどう見るか

  • すべて本人側の自己申告で、第三者による裏付けはありません
  • 取材を受けること自体が宣伝になるため、規模を大きく見せる動機があります
  • 一方で、仮に年間1億件なら1件あたり45円、3,000万件なら150円の利益で届く計算です。桁として「ありえない数字」とまでは言えません

海外業者の実際の入金額:暗号資産の追跡調査

自己申告ではなく、お金の流れから規模を測った調査もあります。NATO StratCom COEの2025年報告では、ラトビアの金融情報機関(FIU)が、実験で支払った暗号資産の行き先を追跡しました。

業者(報告書上の仮名)期間確認できた入金額月平均
RU1(ロシア拠点とみられる)2023年9月〜2025年10月約265,261ドル約10,202ドル
UK22023年7月〜2025年10月約123,714ドル約4,418ドル
US12023年4月〜2025年10月約36,152ドル約1,205ドル
UK12025年1月〜2025年10月約7,808ドル約781ドル

※1つの入金アドレスで確認できた金額のみです。業者は複数のアドレスや決済手段を使い分けているとみられ、報告書も全体像の把握は難しいとしています。実際の売上はこれより多い可能性があります。10件の支払いのうち、最後まで追跡できたのは4件でした。 月に数十万〜百数十万円規模の入金を、1つの窓口だけで受けている業者がいる、というのが実証的に確認できた水準です。国内グループの「45億円」とは大きな開きがありますが、国内報道のような大規模拠点を持つ業者と、再販中心の小規模業者では、稼ぎの桁が違うと考えるのが自然です。

利益の源泉は「卸と小売の差額」

学術誌Computers & Securityに掲載された研究(2022年)は、偽の反応を販売するサイト(SMMパネル)の多くが再販型だと分析しています。実際に数字を作る業者から卸値で仕入れ、上乗せして売る構造です。スマホ農場を自前で持つ業者は、この流通の一番上流に立つため、利幅も大きくなります。

数字の売買には、作る人・卸す人・小売する人がいます。一番もうかるのは、スマホ農場を持って大量に作れる上流の業者です。


4. どこで受発注されているのか

受発注の場は、大きく4つに分けられます。なお、この記事では購入の手引きにならないよう、具体的な業者名やサイト名は掲載しません。

受発注の場特徴主な利用者
① 自動注文サイト(SMMパネル)通販サイトのように、URLと件数を入れるだけで自動で注文できる。他の業者向けの再販用APIを用意していることが多い個人、再販業者、一部の代理店
② Telegramチャンネルでの宣伝、自動注文ボット、個人とのやり取りの3パターン。匿名性が高い再販業者、詐欺グループ、大口の依頼主
③ 表向きのSNS運用代行・Webマーケ会社「フォロワー増加」「拡散代行」「口コミ対策」などの名目で販売。裏で①②から仕入れているケースがある。一般企業、店舗、個人事業主
④ 裏の掲示板・フォーラムブラックハットSEOなどの掲示板で、業者の宣伝や大口取引の相談が行われる業者同士、大口の依頼主

Telegramが使われる理由

Telegram上で偽の反応が売買される経路を調べた研究では、「SMMパネルへの誘導」「Telegram利用者への直接連絡」「専用ボットでの自動注文」の3つのパターンが確認されています。匿名で連絡でき、注文から支払いまでボットで自動化できるため、業者にとって都合がよい場になっています。

支払いは暗号資産が主流

NATOの2025年報告は、業者の主な決済手段を暗号資産としています。国境を越えて速く送金でき、取り締まりが難しいためです。複数の利用者の資金が混ざる決済サービスを経由させることで、追跡を困難にしている実態も報告されています。国内グループも「支払いはドルや暗号資産がある」と語っており、この点は国内外で共通しています。

注意したいのは③

①②④は、一般の企業がわざわざ探しに行かない限り接点がありません。問題は③です。普通のマーケティング会社の顔をした窓口を通じて、依頼した側が気づかないまま偽の数字を買ってしまう可能性があります。詳しくは6章で解説します。
裏サイトやTelegramは、普通の会社には縁が薄い場所です。気をつけるべきは、表向きはまっとうな「運用代行」の顔をした窓口です。


5. お金を出しているのは誰か:依頼主の5タイプ

スマホ農場というと「世論操作」のイメージが強いですが、公開データを見ると、お金の多くは商売目的から来ています。

依頼主のタイプ目的根拠
① インフルエンサー・YouTuber・配信者人気があるように見せ、案件単価や収益化の条件を満たす朝日新聞:国内グループの販売先としてYouTuberが挙げられている
② 一般企業・店舗新商品やキャンペーンを「話題になっている」ように見せる。口コミの水増し朝日新聞:販売先として一般企業が挙げられている。NATO(2019年):購入された反応の9割超が商業目的と推計
③ 代理店・運用代行業者クライアントへの報告数字を良く見せる、成果報酬の達成筆者の見立て(公的な統計はなし)
④ 詐欺グループ偽の投資家や著名人アカウントに信用を与え、暗号資産詐欺などに誘導するNATO(2025年):業者のボットが拡散していた内容の多くが暗号資産詐欺や商業宣伝
⑤ 政治・国家的な主体特定の主張が支持されているように見せるNATO(2025年):政治的・軍事的な内容の拡散が年々増加。ケンブリッジ大学:選挙前にメッセージアプリ用アカウントの価格が上がる傾向

選挙関連の依頼は「断っている」と主張

朝日新聞の記事を紹介したブログによると、国内グループの関係者は、2026年2月の衆院選の際に選挙関連の依頼があったものの断ったと説明しています。一方で「世論誘導なんて簡単にできちゃいますけどね」とも語っています。依頼を断ったかどうかは外部から確認できず、業者の自己規制に頼る状況です。

「政治より商売」が実態に近い

政治利用は影響が大きいため報道で注目されがちですが、日々の注文の大半は、商品を売りたい、人気者に見られたい、という商売上の動機です。NATOの報告書も、商業目的の不正を支える仕組みがそのまま政治目的にも使われると指摘しています。商売の需要が業者の資金源となり、その設備が選挙のときにも使える状態になっている、という構図です。

スマホ農場を支えているのは、一部の政治工作よりも、日々の「ちょっと数字を盛りたい」という商売の需要です。


6. 中小企業が「知らないうちに依頼主」になるパターン

中小企業の現場で起こりやすいのは、自分で業者を探して買うケースよりも、外注先が勝手に使っているケースです。

よくある3つのパターン

  1. 「フォロワー○人保証」の運用代行:短期間で大きな数字を約束する契約は、偽の数字で帳尻を合わせる動機が生まれます
  2. 口コミ・レビュー対策のパッケージ:Googleマップや通販サイトの口コミを「増やす」サービスは、偽の口コミやステルスマーケティングにつながるおそれがあります
  3. 中身が見えない「拡散代行」:どの媒体に、どんな方法で広げるのかを説明しないサービスは要注意です

「頼んだのは外注先」でも責任は残る

日本では2023年10月1日から、ステルスマーケティング(広告であることを隠した宣伝)が景品表示法の不当表示として規制されています。会社が依頼した口コミや投稿で、広告であることが分からない形になっていれば、依頼した会社自身が措置命令の対象になりえます。 米国ではさらに進んでおり、連邦取引委員会(FTC)が2024年10月21日に施行した規則で、偽の口コミに加え、ボットなどで作られた偽のフォロワーや再生回数の売買そのものを、商業目的で影響力を偽る場合に禁止しました。違反には1件あたり数万ドル規模の民事制裁金が科されえます。 日本にはフォロワー購入そのものを直接禁じる法律はまだありませんが、各SNSやGoogleの規約では偽のエンゲージメントが禁止されています。発覚すればアカウント停止や口コミの削除につながり、築いてきた信用を一度に失います。

外注先が勝手にやったことでも、表に出るのは自社の名前です。「知らなかった」では済まない時代になっています。


7. 発注前に確認したいチェックリスト

SNS運用や口コミ対策を外注する前に、次の点を確認してください。

発注前チェックリスト

  • 数字の保証をしていないか:「○日でフォロワー○人」「再生○万回保証」は危険信号
  • 方法を説明できるか:どの媒体で、どんな投稿や広告で増やすのかを書面で確認する
  • 口コミを「作る」提案がないか:口コミは依頼して集めるなら広告であることの明示が必要。自作・代筆は論外
  • 報告に質の指標があるか:フォロワー数だけでなく、保存・コメント内容・問い合わせ数・来店数などを報告してもらう
  • 契約書に禁止事項を入れる:偽アカウント・購入エンゲージメント・口コミ代筆の禁止と、違反時の責任を明記する
  • 急な数字の伸びを確認する:投稿直後の不自然な急増、海外アカウントばかりのフォロワーなどがないか定期的に見る
数字を「買う」代わりに、本物の見込み客に届ける方法はあります。Google広告やGoogleビジネスプロフィール(GBP)の運用は、実際に検索した人・来店を考えている人に接触できるため、成果を問い合わせ数や来店数で確認できます。
大事なのは「何人に見られたか」より「何人がお客さんになったか」です。そこを報告してくれる外注先を選べば、偽の数字に頼る理由はなくなります。


8. よくある質問

いいねやフォロワーを買うこと自体は違法ですか?

日本では、フォロワーやいいねの購入そのものを直接禁止する法律は現時点ではありません。ただし、SNSやGoogleの規約違反になり、アカウント停止の対象です。また、購入した数字や口コミを使って商品を宣伝すれば、景品表示法(ステルスマーケティング規制や優良誤認表示)などに触れる可能性があります。個別のケースは弁護士など専門家に確認してください。

安い業者と高い業者では何が違うのですか?

一般的に、安い業者ほど海外の使い捨てアカウントによる反応が多く、すぐに削除されたり、見る人が見ればすぐ不自然と分かったりします。高い業者は日本人らしいアカウントやコメントを使うとされますが、規約違反である点は同じです。価格の差は「バレにくさ」の差であって、安全性の差ではありません。

競合が自社に偽の低評価口コミを付けていたらどうすればいいですか?

Googleマップなどの口コミは、規約違反として報告できます。感情的に反論する返信は避け、不自然な投稿の日時や内容を記録したうえで、プラットフォームへの報告を行ってください。被害が大きい場合は弁護士への相談も検討しましょう。

「利益45億円」は本当ですか?

本人側の自己申告で、第三者による確認はされていません。記事中で検算したとおり、注文件数が本当なら不可能な桁ではありませんが、宣伝目的で大きく語っている可能性もあります。確実に言えるのは、海外の調査でも月に数十万〜百数十万円規模の入金がある業者が確認されており、商売として継続できる程度にはもうかっているということです。


9. まとめ

まとめ

  • 偽の反応の相場は1,000件あたり数円〜数百円。表示回数は激安、コメントや日本向けアカウントは割高
  • 国内グループは「利益年45億円」と自称するが裏付けはない。海外では1窓口で月数十万〜百数十万円規模の入金が確認されている
  • 受発注の場はSMMパネル・Telegram・表向きの運用代行・裏の掲示板。支払いは暗号資産が主流
  • お金の大半は企業・個人の販促と詐欺グループから。その設備が政治目的にも転用されうる
  • 中小企業は、外注先経由で「知らないうちに依頼主」にならないよう、契約と報告内容で防ぐ
スマホ農場がもうかり続けるのは、数字を買う人がいるからです。逆に言えば、数字ではなく「本物のお客さんの反応」を評価する会社が増えるほど、この市場は縮んでいきます。自社のSNSや口コミ対策を見直すときは、まず外注先の報告書に何が書かれているかを確認するところから始めてみてください。
「数字をいくらで買えるか」を知ったら、次は「うちの数字は本物か」を確かめてみましょう。それがいちばん身近な対策です。

参考リンク

※料金の円換算は1ユーロ=約170円、1ドル=約150円で仮に計算した推計値です。利益の検算は報道された自己申告の数字をもとにした推計です。NATO StratCom COEの価格データは研究目的で少量を購入した結果であり、市場全体の平均価格ではありません。暗号資産の入金額は、追跡できた1つのアドレス分のみです。国内のスマホ農場に関する数字(台数・基板数・注文件数・利益)は、いずれも取材に応じた関係者の説明で、報道機関による独自の検証結果ではありません。本記事は法的助言ではありません。

 

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