
「社員にもAIを使わせたいが、何から決めればいいのか分からない」。20人前後の小売業の経営者から、こうした相談をいただきました。
とりあえず全員に個人契約を配ってみたものの、店長はPOPづくりに、EC担当は商品説明文に、経理は集計表にと、それぞれがバラバラに使っていて、会社としての蓄積が残らない。誰がどんな情報を入力しているのかも把握できない。そんな状態のまま、「もう少し本格的に使いたい」と感じている会社は少なくありません。
この記事では、AnthropicのAI「Claude(クロード)」を、組織向けプランの「Team(チーム)」で導入する場合の基本的な考え方を整理します。ポイントは、機能の使い方よりも先に、「どの設定に、何を置くか」という設計を決めることです。
この記事でわかること
- Claude Teamの「組織の指示・個人設定・プロジェクト・スキル」の役割分担
- 20人規模での席(アカウント)の選び方と費用の目安
- 小売業向けのプロジェクトの分け方(部署・公開範囲)
- 最初に作るべきスキルの選び方
- 失敗しにくい3段階の導入手順
- 導入前に確認しておきたい注意点
先に結論
- 全社のルールは「組織の指示」、部署の資料は「プロジェクト」、作業の型は「スキル」に置く
- 席は全員「標準席」から始め、よく使う人だけ後から「プレミアム席」に切り替える
- プロジェクトは部署単位で作り、見せてよい範囲(公開・招待制)から決める

目次
1. 最初に決めるのは「どこに何を置くか」
Claude Teamには、AIへの指示や資料を置ける場所が大きく4つあります。それぞれ効く範囲が違うため、ここを混同すると「指示がぶつかる」「部署の資料が全社に見える」といった問題が起きます。
| 置き場所 | 効く範囲 | 設定する人 | 置くもの |
|---|---|---|---|
| 組織の指示 | 全社員のすべてのチャット | オーナー(管理者) | 回答の言語、表記ルール、社外秘の扱いなど全社ルール |
| 個人設定 | その社員のチャットだけ | 社員本人 | 担当業務、好みの回答スタイル |
| プロジェクト | 参加しているメンバーのチャット | 作成者・編集権限のある人 | 部署の資料、業務ごとの指示 |
| スキル | その作業をするときだけ | 作成者(組織全体に配布も可) | 商品説明文やレポートなど、繰り返す作業の手順と型 |
考え方としては、組織の指示と個人設定は「誰が使うか」の範囲、プロジェクトは「どの業務か」の範囲、スキルは「どう作るか」の手順書です。スキルはプロジェクトの下にあるものではなく、どのプロジェクトからでも使える横串の道具だと考えると整理しやすくなります。
補足:指示がぶつかったときは
Anthropicのヘルプセンターによると、組織の指示と個人の指示の両方が設定されている場合は、組織の指示が優先されます。全社で守らせたいルールは、個人任せにせず組織の指示に書いておくのが確実です。

2. 席は全員「標準席」から始める
Teamプランは2〜150人向けで、席(シート)の種類は「標準席(Standard seat)」と「プレミアム席(Premium seat)」の2つです。同じ契約の中で混在させることができます。
| 席の種類 | 年払い(1席・月額) | 月払い(1席・月額) | 利用量 |
|---|---|---|---|
| 標準席 | 20ドル | 25ドル | 個人向けProプランより多い |
| プレミアム席 | 100ドル | 125ドル | 標準席の5倍 |
20人で導入した場合の試算は次のとおりです(推測値・税別)。
- 全員標準席・年払い:月400ドル
- 全員標準席・月払い:月500ドル
- 標準席18名+プレミアム席2名・年払い:月560ドル
重要:プレミアム席は「役職者向け」ではありません
プレミアム席は「使える量が多い席」であり、役職や権限の上下とは関係ありません。社長を標準席にして、毎日たくさん使うEC担当をプレミアム席にする、という割り当てで問題ありません。メンバーの招待や設定変更ができる「オーナー」「管理者」といった役割は、席の種類とは別に割り当てます。
利用量の上限は、毎月決まった量を使い切る方式ではなく、5時間ごとに回復する仕組みに週単位の上限が加わる形です。普段の文章作成や相談であれば、標準席で困る場面は多くありません。まずは全員を標準席で始め、上限に何度も当たる人が出てから、その人だけプレミアム席に切り替えるのが無駄のない進め方です。

3. 組織の指示には全社共通のルールだけを書く
組織の指示は、全社員のすべての会話に効く設定です。便利な反面、何でも書き込むと部署ごとの業務と合わなくなります。書くのはどの部署でも変わらないルールに絞ります。
組織の指示に書く内容の例
- 回答は日本語で、社外向けの文章は「です・ます」調にする
- 会社名・店舗名・商品名の正式な表記
- 価格や在庫など、確認が必要な情報は断定しない
- 顧客の個人情報や未公開の数値を扱う際の注意
- 数値を示すときは出典を書き、推測の場合はその旨を書く
一方、「EC担当は商品説明文を200文字で」のような部署ごとのルールは、組織の指示ではなく、次に説明するプロジェクトの指示に書きます。社員それぞれの担当業務や好みの回答スタイルは、個人設定に任せます。

4. プロジェクトは部署単位で、見せる範囲から決める
プロジェクトは、業務ごとの資料と指示をまとめておく場所です。Teamプランでは、組織全体に公開するか、招待したメンバーだけにするかを選べます。20人規模の小売業であれば、次のような構成が一つの目安です。
| プロジェクト | 公開範囲 | 主な用途 | 入れる資料 |
|---|---|---|---|
| 全社共通 | 全員 | 社内ルールの確認、文書作成 | 会社概要、商品一覧、就業規則、よくある質問 |
| 販売_店頭 | 販売スタッフ | POP、接客トーク、売場企画 | 商品情報、販促カレンダー |
| 販売_EC | EC担当 | 商品説明文、レビュー返信、メルマガ | 商品情報、ECの規約、人気商品ページ |
| 販促・集客 | 販促担当 | チラシ、SNS投稿、口コミ返信 | ブランド方針、地域情報、過去の販促実績 |
| 経理 | 招待制 | 売上集計、経費チェック | 勘定科目のルール、集計表の書式 |
| 総務・人事 | 招待制 | 求人原稿、社内通知、シフト案内 | 就業規則、求人条件 |
| 経営 | 役員のみ | 売上分析、計画づくり | 月次数値、事業計画 |
プロジェクトを作るときの注意点
- サブプロジェクトは作れない:プロジェクトはすべて同じ階層に並びます。「販売_EC」「販売_店頭」のように名前の頭に部署名を付けると、並べたときにまとまって見えます。
- 資料はプロジェクト間で共有されない:商品一覧のように複数の部署で使う資料は、必要なプロジェクトそれぞれに入れます。
- チャットは本人のもの:公開プロジェクトの中でも、各自のチャットは本人が共有しない限り他のメンバーからは見えません。
- 最初から全部作らない:「全社共通」と利用の多い2部署から始め、必要になってから増やします。
分けるかまとめるか迷ったときは、「同じ資料を同じ人が使うならまとめる」「担当者や見せてよい範囲が違うなら分ける」を基準にしてください。特に経理・総務・経営の資料は、招待制にして見られる人を限定しておきます。

5. スキルは「部署をまたぐ作業の型」に絞る
スキルは、特定の作業の手順や書式をまとめた「手順書」です。Teamプランでは、作ったスキルを組織全体に配布できます。小売業で効果が出やすいのは、複数の部署で繰り返し発生する作業です。
| スキル | 使う部署 | 内容 |
|---|---|---|
| 商品説明文 | 店頭・EC | 文字数、表記ルール、訴求ポイントの並べ方を統一 |
| 口コミ・レビュー返信 | EC・販促 | 返信のトーン、使わない表現、クレーム時の手順 |
| 販促文面 | 店頭・販促 | チラシ、SNS、POPの型 |
| 月次売上レポート | 経理・経営 | 集計手順、グラフ、コメントの書き方 |
| 社内文書 | 全部署 | 通知文、議事録の書式 |
仕組み:作り方はスキル、材料はプロジェクト
たとえば商品説明文なら、「どういう順番で、何文字で、どんな表現で書くか」という作り方をスキルに、「どの商品の、どんな特徴か」という材料をプロジェクトの資料に置きます。こうしておくと、書き方を見直したいときはスキルを1つ直すだけで、店頭でもECでも同じ品質の文章がそろいます。
最初からすべてを作る必要はありません。社内で一番よく発生している作業から2〜3個に絞って作り、使われ方を見ながら増やしていきます。

6. 導入は3段階で進める
20人全員に一斉に配ると、使い方が定まらないまま「よく分からない」で終わりがちです。次の3段階で進めると定着しやすくなります。
| 段階 | 期間の目安 | やること |
|---|---|---|
| 1. 試行 | 2〜4週間 | 推進役2〜3名で使い、組織の指示と「全社共通」プロジェクトを整える |
| 2. 部署展開 | 1〜2か月 | 利用の多い2部署にプロジェクトを作り、最初のスキルを2〜3個用意する |
| 3. 全社展開 | その後 | 残りの部署に広げ、よく使う人をプレミアム席に切り替える |
※期間は一般的な目安で、会社の規模や業務内容によって変わります。
あわせて、利用ルールを1枚にまとめて配っておきます。最低限、次の2点は明文化しておきましょう。
最低限決めておく利用ルール
- 入力してはいけない情報:顧客の個人情報、カード番号、パスワード、取引先の未公開情報など
- 出力は必ず人が確認する:価格、在庫、法令に関わる表記は、そのまま公開せず担当者が確認してから使う
社内に推進役がいない場合や、設定・研修まで手が回らない場合は、外部の専門家に初期設計だけ依頼するのも一つの方法です。

7. 導入前に確認しておきたい注意点
確認しておきたいこと
- 料金はドル建て・税別:為替によって円での支払額が変わります。価格や内容は変更される可能性があるため、契約前に公式の料金ページで確認してください。
- 細かい権限管理や監査ログは上位プラン:機能ごとに社員の使える範囲を細かく制御する機能や監査ログは、Enterpriseプランの機能です。Teamプランでは、プロジェクトの公開範囲で情報を分けるのが基本になります。
- 管理者は少人数に:全員を管理者にせず、オーナーは社長など1〜2名、実務の管理者は1名程度に絞ると、設定の変更履歴を把握しやすくなります。
なお、Anthropicの料金ページでは、Teamプランは初期設定で入力内容をAIの学習に使わないと案内されています。社員が業務の情報を入力する前提であれば、この点は個人向けプランとの大きな違いです。

よくある質問
個人向けのProプランを20人分契約するのではだめですか?
使うこと自体はできますが、プロジェクトを社員同士で共有したり、全社共通の指示を設定したり、支払いや社員を一括で管理したりすることができません。会社として使い方をそろえたいなら、Teamプランのほうが向いています。
プレミアム席は店長や役員に割り当てるものですか?
いいえ。プレミアム席は利用量が標準席の5倍ある席で、役職とは関係ありません。実際にたくさん使う人に割り当てます。
他の社員に自分のチャットを見られることはありますか?
自分で共有しない限り見られません。公開されているプロジェクトの中で作ったチャットも同様です。チャットを共有する場合、Teamプランでは同じ組織のメンバーだけが見られる形になります。
利用量の上限に達したら、その日は使えなくなりますか?
上限は一定時間で回復します。Teamプランでは追加の利用量を購入する仕組みもあるため、席を切り替えずに対応することもできます。頻繁に上限に達する人は、プレミアム席への切り替えを検討してください。
プロジェクトの中にフォルダやサブプロジェクトは作れますか?
作れません。プロジェクトはすべて同じ階層に並びます。「販売_EC」のように名前の付け方で整理するか、1つのプロジェクトの中で資料名に「EC_」「店頭_」と付けて区別します。
まとめ
まとめ
- 全社ルールは「組織の指示」、個人の好みは「個人設定」、部署の資料は「プロジェクト」、作業の型は「スキル」に置く
- 席は全員標準席から始め、よく使う人だけ後からプレミアム席に切り替える
- プロジェクトは部署単位で、見せてよい範囲(公開・招待制)から決める
- スキルは部署をまたいで繰り返す作業から2〜3個に絞って作る
- 少人数の試行から始め、利用ルールを明文化してから全社に広げる
AIの導入でつまずく会社の多くは、ツールの性能ではなく「置き場所が決まっていない」ことが原因です。最初に設計を決めておけば、社員が入れ替わっても、使い方と蓄積が会社に残ります。まずは推進役を2〜3名決めて、「全社共通」プロジェクトづくりから始めてみてください。

参考リンク
- Anthropic:Plans & Pricing(Claudeの料金とプラン比較)
- Claude Help Center:Set organization instructions
- Claude Help Center:Manage project visibility and sharing
- Claude Help Center:How can I create and manage projects?
- Claude Help Center:Share and unshare chats
- Claude Help Center:Manage members on Team and Enterprise plans
- NorthLab:Claude Projects, Explained(サブプロジェクト非対応の解説・第三者サイト)
※料金・機能は2026年9月26日時点のAnthropic公式料金ページとヘルプセンターの情報です。料金はドル建て・税別で、変更される可能性があります。20人での月額は公式の単価をもとにした試算(推測値)で、為替や席の構成によって変わります。プロジェクト構成・スキル例・導入期間は筆者の支援経験にもとづく一般的な目安で、公式の推奨ではありません。サブプロジェクトが作れない点は、公式ヘルプに明記がないため第三者サイトの解説を参照しています。
